宅建試験において、権利関係からは計14問出題されますが、意思表示に関しては比較的覚えやすいので、絶対に落としたくない分野であると言えます。
今回はその中の1つである「心裡留保」について見ていきましょう。
【心裡留保とは】
AさんがBさんに対し、本当は売る気がないのに時価1億円の土地を「1000万円でこの土地を売ってあげるよ」と何気なく言ったとします。
そしてBさんも「どうせ売る気なんかないくせに」とわかっていながら、「お!いいね!買うよ」と答えました。
このように、真意ではないことを知りながら意思表示をする事(冗談など)を心裡留保といいます。
【心裡留保は原則有効】
上記の事例で、もしもBさんがAさんの言葉を信じてすぐに1000万を借りるなどして用意してきたとします。
こうなって初めてAさんが「あれは冗談だ」と言ったとしたらBさんが報われませんね。
この場合は、軽はずみな冗談を言ってしまったAさんが悪いので無かったことには出来ません。
【善意無過失か、善意有過失か、でも結果が異なる】
話をもちかけられたBさんが、この話は“冗談だとわかっている場合(悪意)”、相手方が悪意である場合は無効となります。
もしくはBさんがAさんの言った事を真に受けてしまった場合(善意)でも、「本当に1億円の土地を1000万で売ってくれるの?」などと確認すれば容易に冗談だとわかるはずの事を、Bさんが確認もせずに鵜呑みにした(有過失)とすれば、Bさんにも過失があります。
このように善意の場合でも、相手方に過失があれば(善意有過失)無効になります。
【第三者には対抗できない】
BさんがAさんの話を冗談だとわかっていても、Bさんが何の事情も知らないCさん(善意の第三者)に「Aさんから時価1億円の土地を買ったから、9000万円で転売してあげるよ」と持ちかけた場合はどうでしょうか。
AさんとBさんの間の取引が心裡留保で無効だったとしても、関係のないCさんを巻き込んで許される理由にはなりません。
そのため、心裡留保は善意の第三者には対抗できないのです。
相手方が善意無過失 |
有効 |
相手方が善意有過失 |
無効 |
善意の第三者に対して |
対抗できない |
■民法第93条
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。■判例、最判平成4・12・10
親権者がその法定代理権を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知りまたは知りうべかりしときは、本条但書の規定を類推適用して、その行為の効果は子には及ばないと解するのが相当である。■判例、最判昭和42・4・20
代理人が自己または第三者の利益を図るため権限内の行為をなしたときは、相手方が代理人の右意図を知り、または知ることをうべかりし場合に限り、本条但書の類推により、本人はその行為についての責に任じないと解すべきである。■判例、最判昭和38・9・5
株式会社の代表取締役が自己の利益のため、表面上会社の代表者としてなした法律行為は、相手方が右代表取締役の真意を知り、または知りうべきであったときは、本条但書の類推により効力を生じないものと解すべきである。
【宅建試験での出題例】
実際の試験では、以下のように出題されます。
問題 1:A所有の土地が、AからB、BからCへと売り渡され、移転登記もなされている。
この場合、Aが売る意思もないのに売買契約をした場合、Bがそのことにつき悪意であれば、Cが善意でもAはAB間の売買契約の無効をCに対して主張する事ができる。
正解は、×です。
Cは善意の第三者ですから、AはCに対抗できません。
問題 2:AがBに対し、売る意思の無い売買契約をした際、Bがそのことにつき善意無過失であればAはBに対し無効を主張できない。
正解は○です。
【まとめ】
善意であっても過失があれば守ってもらえないところに注意しましょう。
実際の試験問題では漢字の羅列が多いので、善意無過失と善意有過失を読み違えて失点してしまうようなことが無いよう過去問を繰り返し解いて、実践に備えておくことをオススメします。
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