宅建試験対策! 権利関係
【抵当権】
Aさんが、家を建てるためにB銀行から3000万円の住宅ローンを組もうとしています。
しかしB銀行からすれば、貸したお金をちゃんと返済してもらえるかどうかわかりません。
なんの保証もないままAさんに大金を貸すのはリスクが高すぎるので、確実にお金を返してもらえるように担保が欲しいところです。
そこで、B銀行はAさんの住宅に「抵当権」をつけることにしました。
万が一、Aさんが借金を返さなかった(住宅ローンが払えなくなった)場合、B銀行は抵当権の目的物(Aさんの住宅)を差し押さえて競売にかけ、その売却代金から被担保債権を回収できるようになります。
つまり強制的にAさんの住宅を競売で売り払って、それで得たお金から借金を返してもらう、という仕組みです。
抵当権とは、債権(Aさんの借金)を回収する担保にするために設定される物権であり、「担保物権」の一種に分類されます。
また、抵当権は「占有を移さない」担保物権ですので、抵当権設定後もAさんは自宅(抵当権の目的物)を自由に使うことができます。
いろいろと専門用語が出てきたので、ここで整理しておきましょう。
自分の住宅を抵当に入れた者(Aさん) |
抵当権設定者 |
抵当権を持っている者(B銀行) |
抵当権者 |
抵当権によって担保されている債権 |
被担保債権 |
もくじ
【抵当権の及ぶ範囲】
もし抵当権が実行された場合、以下3つが競売にかけられる対象となります。
1:付加一体物
抵当権の目的物である不動産と一体になっている物をいいます。雨戸や壁紙がこれにあたり、一体ですので、当然抵当物と一緒に競売できます。
2:抵当権設定時からある従物
従物とは、不動産と合わせて使われますが、取り外しが可能な物をいいます。
例えば畳や建具等がこれにあたり、抵当権設定時には既に和室に畳が敷いてあった場合には一緒に競売できます。
3:従たる権利
例えばAさんの家が借地に建っていた場合、土地を借りる権利である「借地権」も一緒に競売にかけられます。
【二番抵当、三番抵当】
1つの抵当物に2つ以上の抵当権が設定される場合もあります。
上と同じ事例で見ていきましょう。
Aさんは、Cさんからも1000万円借りようとしましたが、担保となる住宅には既にB銀行が3000万円の1番抵当を設定しています。
しかしAさんの住宅の時価が5000万円であれば、競売で3000万円をB銀行が回収しても、2000万円残りますので、まだ担保価値があります。
そこでCさんは、Aさんの住宅に2番抵当を設定して担保にすることにしました。
Aさんの債務不履行によって競売になった場合、まず1番抵当権者(B銀行)から回収していき、残った額から2番抵当権者、3番抵当権者という順で回収していきます。
また利息も担保対象となり、競売によって回収する事ができます。
ただし利息については、「その満期となった最後の2年分のみ」優先弁済を受ける事ができるとされています。
これは後順位の抵当権者がいた場合に保護するための規定であり、もし後順位の抵当権者がいなければ利息は2年分に制限されません。
【抵当権の5つの性質】
1:成立の付従性
被担保債権が成立しなければ、抵当権も成立しません。
例えば住宅ローンの審査が通らなかったときは、抵当権の設定も成立しなかったことになります。
2:消滅の付従性
被担保債権が消滅した場合は、抵当権も一緒に消滅します。
もし住宅ローンの返済がすべて完了したときは、同時に抵当権も消えていきます。このとき、わざわざ抵当権設定登記の抹消登記をする必要はありません。
3:随伴性
被担保債権が譲渡されると、抵当権も共に移転します。
4:不可分性
全額が弁済されない限り、抵当権を目的物全部の上に行使できます。
AさんがB銀行に2900万円返済しましたが、残り100万円が返せなかったとします。
この場合でも、競売にかけられるのは残り100万円相当の部分だけ、ということにはできません。
債権がほんのわずかでも残っていれば、B銀行はAさんの住宅全体を競売にかけることができます。
これを「不可分性」と言います。
5:物上代位性
抵当権は、目的物の価値変形物に対してもその効力が及びます。
例えばAさんの住宅が火事で焼失したとします。
抵当権の目的物が無くなれば、抵当権も消滅し、B銀行は担保を失ってしまいます。
そこで、Aさんにおりた火災保険金を「抵当物が形を変えた物」とみなし、「B銀行は、Aさんの火災保険金を差し押さえて債権の回収にあててもいいですよ」と認められているのです。
これを「物上代位」と言います。
ただし、Aさんに保険金が支払われる前に差押えなければ物上代位は実行できなくなってしまうので注意しましょう。
【抵当権消滅請求と代価弁済】
抵当権が設定されている不動産を購入した「抵当不動産の第三取得者」を保護するために、「抵当権消滅請求」という規定があります。
事例としては、もともと抵当権が付いていた中古住宅を買った者を保護するための規定です。
抵当不動産の第三取得者は、一定の代価を払うことにより抵当権を消滅させるよう、書面を送付して抵当権者に請求する事ができます。
ただし抵当権消滅請求は、競売による差押えの効力が発生する前に行わなければなりません。
逆に抵当権者の方から、抵当不動産の第三取得者に対し、「抵当権を抹消してあげるから、代わりに代金を払ってね」、と請求する事もできます。
これを「代価弁済」と言います。
<サイト管理者コラム ~任意売却について~>
不動産売買の仕事をしていると、ときどきこういった事例に出くわします。「任意売却」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
これは、住宅ローンを支払えなくなってしまった人が、自宅を銀行(抵当権者)に差押さえられて強制競売される前に、任意で売却に出すことを言います。地方裁判所で競売されてしまうよりも一般で売却したほうが、ちゃんとした不動産相場で売れるからです。
任意売却の売主は、その売却金で銀行に残代金を支払い、抵当権の抹消をしてもらうのが一般的です。
このとき、もし売却金が住宅ローンの残債に足りてない場合は、銀行との話し合いが必要になってきます。買主にとっては関係のないことなので、仲介に入っている不動産営業マンはかなり気を使うことになりますね。
さらに、もし後順位抵当権者がいる場合は、1番抵当権者と2番抵当権者の折り合いがなかなか付かなくて売買の取引が長引くこともあります。そもそも売主は積極的に自宅を売りたいわけではないので、のらりくらりと売買契約を引き延ばそうとすることもあり、けっこうめんどうな案件になりがちです。
不動産業界では、任意売却を略して「任売(にんばい)」と呼んでいます。
■民法第369条 抵当権
1、抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。2、地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。■判例、大決大正4・10・23
他人の不動産の上に抵当権を設定する意思表示は有効であり、債務者が不動産の所有権を取得すると同時に抵当権設定の効力を生じる。
【宅建試験での出題例】
問:抵当権設定者Aが、債務の一部を弁済しても、全額が弁済されるまでは目的物の全体に抵当権が及ぶ。
答えは○です。
権利関係の中でも抵当権については覚える要素が多く、混乱しやすいですが、必ずと言っていいほど出題される重要な分野です。
実際の不動産取引業では、ほぼ間違いなく抵当権が絡んでくるので実務でも必須の知識です。
全てを暗記できれば理想なのですが、膨大な時間を要することになってしまいます。
宅建試験合格のために効率よく勉強したい方は、「捨てる部分は捨てる」という覚悟を持って、過去問でも出題数の多い「抵当権の及ぶ範囲、抵当権の性質、抵当権消滅請求と代価弁済」の3つにポイントを絞り、しっかりと知識の定着をしていくことをオススメします。
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